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第1回 夜・文章講座のご案内。

夜・文章講座
プルーストと小説の諸方法 Ⅱ ――プルーストに倣った物と人と空間のデッサン
講師 葉山郁生(作家)

第1回 5月15日(月)午後6時30分~

◎内容
・テキスト第四章前半の解説
・課題=「物を描く」(人称・題材自由で、周密体・細密画のようにして、物と物の細部を描く、擬人法も可) 例文として、テキストのP.136に引用のプルーストのテーブル上の静物画のような文章。また野間宏「暗い絵」の学生食堂を描いた文章

◎第1回の課題文のための例文は次の二つです。
(1)プルーストの文章
 ……まだはすかいに置かれているナイフの類のその中断されたままの身ぶり、太陽の光線が黄色いビロードの一片をさしこんでいる使ったあとのナプキンのふっくらしたまるみ、朝顔型に口がひらいた高貴なカットをいっそうひきたたせて見せる、飲みのこされたグラス、日ざしの凝固にも似た透明なそのクリスタルの底の、くすんだ、しかし光にきらめいているぶどう酒の残り、量の移動、光線の照明による液体の変質、すでになかばはたべあらされた果物盛のなかの、みどりから青へ、青から金色へと移るプラムの色彩の変化、食道楽の祭典が催される祭壇のようなテーブルの上の、敷きつめられたテーブルクロスのまわりに、日に二度ずつやってきては場所を占める古ぼけた椅子の行脚僧(あんぎゃそう)、そしてそのテーブルの上の、牡蠣の殻の底に残っている水、石の小さな聖水盤のなかに見られるような光った数滴の水、そうしたものを、何か詩的なもののように、私は愛するのであった。そんなところに美があろうとはいままで想像もしたこともなかった場所に、もつともありふれた事物のなかに、「静物」の奥深い生命のなかに、私は美を見出そうと試みるのであった。
(2)野間宏「暗い絵」の文章
 安物の白塗料を用いてある部屋の新しい四囲の壁には白い電灯の光が照り返っている。……厚い松材の少しそり返って罅割れた六尺テーブルの上に、粗末な長い竹箸を入れた竹筒の背の高い箸立や、白い安物の湯飲み茶碗をふせた、木のくりぬき盆、アルミの大きい湯沸しが冷たい影をつけている。この食堂に足を入れた時、深見進介の中背よりは少し大きい身体をつつんだ垢じみた学生服の姿は、光の中にぱっと浮かび出た。