文章講座(夜)

担当講師:
津木林 洋(作家)
半年3回/月曜日開催
18:30〜20:30

小説における描写(Ⅲ)

在校生無料

津木林 洋(作家)

 小説を書く場合、今、視点人物の目の前で起こっているように書く方が力強いのはいうまでもありません。過去もそのように書く方がいい。しかし書こうとしているのが現在のことなのか過去のことなのかによって、書き方もずいぶん変わってきます。自分の経験を元に小説を書こうとする場合はもちろん、主人公の過去を取り込みたい場合にもどう書くかを考えなければなりません。今回は三人の作家の作品を読んでそのことを考えていきましょう。

スケジュール

5月20日(月)
 最初に取り上げるのは宮本輝の「真夏の犬」です。日本人で初めて、ヨットで太平洋を横断した青年の実家を見に行こうと友だちに誘われたが、行けなかった中学二年生の夏の出来事を書いています。過去を現在のように描く回想形式で、一攫千金を追い求める父と何事にも動じない母、そして大人の世界を垣間見るぼくの姿が鮮やかに描かれています。ある事件が起こりますが、その結末を曖昧にできるのは回想という形式ゆえかもしれません。

課題:過去のある出来事を現在起こってるように書いてください。
6月24日(月)
 次は幸田文の「台所のおと」です。台所にいるあきの立てる音に耳を澄ます病床の佐吉。二人は夫婦で料理屋をやっており、いつもなら佐吉が包丁を振るうのだが、今はあきがその代わりをしている。二人の視点で話が進み、それぞれの過去が挿入されています。そのことによって二人の結びつきがいかに代えがたいものであるかが示されています。音によって夫婦の機微を描いているのが素晴らしいですね。

課題:現在の話に過去を挿入してください。
8月26日(月)
 次は松浦寿輝の「花腐し」です。経営しているデザイン事務所が倒産寸前で、金を借りた消費者金融の一つから地上げしようとしている古アパートに居座っている男を追い出してくれと頼まれて出向いていく男。その現在時間のなかに十数年前に二年ほど一緒に暮らし、その後入水自殺をした女との過去がフラッシュバックのように挿入されています。雨という背景を効果的に生かしています。

課題:過去は過ぎ去った時間ではなく、現在と共にあるという書き方をしてください。

備考
⦿課題が浮かばない方は、自由に書いていただいても構いません。
⦿課題作は当日、筆者に朗読してもらいます。ペンネーム可。
⦿課題、もしくは自由題のどちらかを本文800字以内で書き、講座のある9日前までに、大阪文学学校事務局(〒542-0012 大阪市中央区谷町7-2-2-305)へ郵送または持参してください。