文章講座(夜)
小説における描写(Ⅱ)
在校生無料津木林 洋(作家)
登場人物が生き生きと描かれていると、それだけで作品を読もうという気になりますよね。人物の個性に頼らないという考え方ももちろんあるわけですが、それでも人物造型のうまさは現代の小説にとっても有効です。キャラクター小説という言葉もあるくらいですから。今回は人物描写という観点から既成作家の作品を読み、自分なりにそれを応用してみましょう。
スケジュール
- 10月30日(月)
- 最初に取り上げるのは村上春樹の「ドライブ・マイ・カー」(『女のいない男たち』に所収)です。冒頭、女性ドライバーを二種類に分ける説明が続き、その後運転を依頼する若い女性が登場します。作品中で視点人物が初めて会う人物はしっかりと描写すべしというセオリー通り、体格、容貌、服装などを細かく書き込んでいます。冒頭の二分法には彼女は当てはまらないという形で造型しているのが面白いですね。
課題:初めて会った人物を描写して下さい。
- 12月11日(月)
- 次は絲山秋子の『イッツ・オンリー・トーク』です。絲山秋子は人物描写も含めてあまり描写をしない省筆の作家の一人でしょう。様々な男たちが出てきますが、描写は一筆書きにして、会話と行動で造型していきます。それでも何となく人物の姿形がイメージできるようになるのが面白いところです。精神を病んでいる主人公なのに暗くならず、ひりひりした感覚を笑いに変えています。
課題:登場人物を会話と行動で造型してください。
- 2月5日(月)
- 次は上田岳弘の『私の恋人』です。生まれ変わりという設定を利用して人類の歴史を語り、それを一人の男の日常に接合して、SF的な文明批評を展開するという作品で、「私の恋人」がその批評を映す鏡のようになっています。そのため「私の恋人」の造型が説明中心になるのはある意味仕方がないのかもしれません。壮大な話と細部のリアリティが求められる話を繋げるという難しさに果敢に挑戦しています。
課題:ある人物を説明で造型してください。
備考
⦿課題が浮かばない方は、自由に書いていただいても構いません。
⦿課題作は当日、筆者に朗読してもらいます。ペンネーム可。
⦿課題、もしくは自由題のどちらかを本文800字以内で書き、講座のある9日前までに、大阪文学学校事務局(〒542-0012 大阪市中央区谷町7-2-2-305)へ郵送または持参してください。