文校ブログ

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今春の新入生55名(夜15、昼18、通教22)の皆さんへの「ハガキ一枚」課題、今のところ9名から届いています。◆作品発表・第1弾【通教部・立花十子さん/同・鈴木悟さん/昼間部・廣瀬浩さん】

春期新入生55名の皆さんへこの連休中に、郵送と文校ブログを通じて、ハガキ一枚の課題を出しました。
【◎私のふるさと ◎文学学校入学にあたって ◎私を売り込みます ◎私の歩んできた道 ◎私だけのもの ◎最近強く思うこと】という六つのタイトルのうちからひとつを選び、所定のハガキ一枚に400字~600字ほどで書いて〈ワープロ・パソコン可〉、事務局へ持参か郵送してください、とお願いしてあります。
まだ出していない方、ハガキのかわりに、メールで送っていただいてもかまいません。むしろ、その方が助かります。締切は5月31日(金)必着です。提出作品は全て、「文校ニュース」に載せ、文校の多くの皆さんの眼に触れられるようにします。
        *      *
今日までに9名の方から届いているのですが、その中から、立花十子さん(通教部/46歳)、鈴木悟さん(通教部/69歳)、廣瀬浩さん(昼間部/66歳)三人の作品を紹介します。【小原】

        ☆       ☆ 
 私だけのもの  立花十子(通・小説・美月C/大阪府堺市) 

 以前、七畳一間のワンルームで暮らしていた。壁際にあらゆるものが収納されていて、手を伸ばすだけで、すべてのものが取り出せた。
 駅もスーパーもパン屋も近かった。鎌倉創建の由緒正しい古刹がご近所で、休日、窓を開けると、うららかな日差しとともに、線香の匂いが流れて来た。駐車場の壁を乗り越えた大木の枝が、心地よさげに揺れながら、アスファルトに影を落としていた。
 仕事帰りに買えば用が足りるので、料理はほとんどしなかった。空っぽの冷蔵庫は、いつのまにか、本棚になった。
 ある夜、近くに雷が落ちて、辺り一帯が停電した。私は、小さなテーブルで一人前の鍋を作ろうとしていた。しばらく、じっとしていた。闇の中、簡易コンロの火だけが青々と光っていた。どこかへ行くことも考えたが、町は静寂で覆われていて、広範囲の停電が予想された。とりあえず、鍋の中身を口に入れてみた。驚いたことにほとんど味がしなかった。味覚は視覚あってのものだということを、そのとき知った。

        ☆       ☆ 
 文学学校入学にあたって 
 鈴木悟(通・エッセイ/ノンフィクション・菅野C/宮城県登米市) 

 白や赤のつつじが咲く庭に突き出したウッドデッキにパソコンを持ち込んでいる。ここは東北の片田舎。日差しは穏やかで、風も心地よい。離れのステレオからは、カザルスのチェロの演奏が流れている。
 小千谷ちぢみの浴衣に袖を通し、行きつけのカフェの自家焙煎珈琲を注ぐ。妻が手ぬぐいで編んだ草履を履き、広辞苑をそばに置く。そして「大阪文学学校ブログ」を開いて、宿題にとりかかろうとしている二〇二四年五月五日午前十時十七分。
 お酒の勢いで文学学校に入学して二カ月がたつ。昨日は『夢を売る男』を読んだ。今日は『バッタを倒しにアフリカへ』を。自分では選ばない本を読むのが面白い。読書ノート提出という縛りがよい。
 自分の作品は、なかなかすすまない。それでも、古希を迎え、仕事に忙殺されながらも、文学という「知的で高尚な遊び」の時に身を委ねていることに酔っている私。今は、このことが、文学学校に入学した最大の意義かもしれない。ただ、このままでは終わらないと思っているもう一人の自分がいる。
また、鶯が鳴きだした。

        ☆       ☆ 
 最近強く思うこと  廣瀬浩(昼・小説・夏当C/大阪府枚方市) 

 六十六歳。家庭においても、会社においても必要とされる場面が激減した、情けないが現実である。二十の頃、六十六歳は老人と思っていた。実際に自分がその年齢に達し、多少分別臭くなっただけで、ほとんど成長していない自身の脆弱な精神構造に気づき愕然とした。運動身体的な衰えを枚挙すれば暇がない。頭は物覚えが悪くなり、有名人の名を思い出すのに「○○に出演して、○○の役で……」周辺部分ばかり思い出し肝心の人名が思い出せず、全く場違いの時に思い出し一人手を打つ。筋肉としての頭脳の衰えだろう。
 結婚、子育て、親の介護も経験し、自身の親は看取った。配偶者の親の介護が本格化しそうな状況ではあるが、精神的に成長しないのは何故? 過去の文学青年が急浮上してきた。今なら間に合う「小説を書きたい」そんな思いが膨れ上がり文学学校の門を叩いた。年齢を経て深い洞察力が身に付き、第三者に共感できる描写、身上吐露ができるかと言えばそんな訳はない。入校間もないがチューターの指摘、同好の士達との出会いが私を成長させてくれている。最近強く思います、入校して良かったと。